オペアンプの基本原理

 <はじめに>
 オペアンプの基本原理は非常に単純です。しかしオペアンプについて記述されているものの中には誤解を招く内容があり、それが理解を妨げている場合があるように思います。 その一つが、増幅がオペアンプICの内部で行われているようなイメージのものです。 増幅はオペアンプICの外で行われています。それを意識しながら増幅の原理を少しでも分かりやすく、簡単に説明したいと思います。
なお、以下、オペアンプIC単体を「オペアンプIC」、外付け抵抗を含めた回路全体を「オペアンプ回路」と記述します。


<理解するために必要な考え方>
 無意識に考えてしまう思い込みが誤解の原因となりますので、まずありがちな思い込みを払拭する事が必要です。 個人的な推測ですが、ありがちな思い込みとして下記があます。

①オペアンプICに入れた2つの入力信号の差を、外付け抵抗で決めた増幅率で増幅する。(×)
②オペアンプICの増幅率は無限大だが、外付け抵抗を付ける事により、その増幅率を調整する
 ことができる。(×)
これらは間違いです。

外付け抵抗で増幅率を調整している(決めている)の所だけを切り取ると間違ってはいませんが、その前に書かれている内容と組み合わせると間違いになります。

①②はいずれも、オペアンプICの中で増幅している、という考え方です。
しかし、オペアンプIC内で増幅を調整する事はしていません。また重複しますが、外付け抵抗はオペアンプICの増幅率を調整しているわけではありません。
ではオペアンプICの増幅率(Av)とは何なのでしょうか? これは後述します。

ここで必要な考えは、
「オペアンプIC」と「オペアンプ回路(システム)」の動作を切り分けて考える
という事です。

下図は、今説明した内容を図で表現したものです。
一番上の図:オペアンプIC単体の特性を表しています。増幅率は無限大ですので出力は振り切
      れています。(オペアンプ回路構成にすると振り切らす中間値を出力する)
中間の図: オペアンプ単体が設定された増幅率で増幅を行っている。(×)
      これは間違いです
一番下の図:外付け抵抗を構成する事で、分圧回路が増幅を行っている。オペアンプの役目は
      あくまで仮想短絡のみ。(◯)
      正しい考え方



<説明の流れ>
オペアンプ回路が増幅機能を実現する原理を以下の順序で説明します。
・オペアンプICの役目→ 増幅ではなく仮想短絡(イマジナリショート)を実現すること。
・仮想短絡を実現するメカニズム→ 負帰還回路は必ず仮想短絡が形成される。
・仮想短絡が増幅回路を実現するメカニズム→ 抵抗分圧回路の分圧比を利用して増幅を実現。
                     仮想短絡はその支点等の役目をする。


<オペアンプICの役目>
 オペアンプ回路の中でオペアンプICが行う動作はコンパレータそのものです。
オペアンプとは、ロジックレベルで考えればコンパレータです。
つまり、+端子と−端子を比較し、+が高ければHi、低ければLoを出します。

これを説明しているのが、よく目にするこの式です。
   Vo=Av*(Vin(+) −Vin(-))
                        Av(増幅率)=無限大

しかし、これがオペアンプ回路に誤解を与える元凶です。
オペアンプ回路はこの式の原理で増幅をさせているのではありません
この式は、コンパレータである事を表しているに過ぎません。
つまり、Vinの2入力の差を無限大に増幅すれば、VDDかVSSになるだけです。

オペアンプICの機能はコンパレータと同じで、その性質を利用して仮想短絡を作ります。
オペアンプICの役目は、仮想短絡(イマジナリショート)を作る事だけです。


<仮想短絡のメカニズム>
 オペアンプで負帰還回路を構成すると、(+)端子と(-)端子が同じになる仮想短絡が実現します。これはオペアンプ(コンパレータ)のIC内部を理解しなくても、単純なロジックだけで説明ができます。 ここで留意して置きたいのは、デジタル動作をするオペアンプICがなぜアナログ値を出力するのかという事です。

デジタルといえどもLoからHiにワープ(瞬間移動)するわけではありません。脳内のデジタル世界ではLoとHiの間など存在しませんが、 現実世界では逆にデジタルなど存在しなく、アナログを擬似的にデジタル動作に見せているだけです。
オシロスコープの時間軸を拡大すれば、垂直に見える波形部分もなだらかなスロープになっています。

以上を踏まえて、仮想短絡になるメカニズムを説明します。
以下、まず負帰還回路で構成したオペアンプICの動作です。
具体的考える為にVin(+)を3Vとします。Voutの最初の値は0Vだとします。(VDD=5V)
まずは、デジタル世界だけで考えてみます。
負帰還ですのでVoutはVin(-)に入力されます。(Vin(-)=0V)
2入力を比較するとVin(+)が高いのでVout=0→5Vとなります。
5VがVin(-)に入力されるとVin(+)の3Vより大きくなるので今度はVout=5→0Vとなります。
その後は、しきい値(3V)を跨ぐ度に反転するので、0V ~5Vを無限に往復します。

しかし、実際は前述の通りデジタルICといえども0から5Vにワープしているわけではないので、途中の数値も通過します。3Vを通過した直後に反転命令が出ます。 これは上り下り共に同じです。0Vや5Vに到達する前に反転するのです。 即ち、3Vを中心とした発振波形になり、3Vに安定した波形になります。
微視的に見れば3Vを跨いで行ったり来たりしているので安定しているわけではありませんが、振幅が限りなく0であれば3Vに安定しているように見えます。


このようなメカニズムで、Vin(+)の値を横切る度に反転命令が出ますので、Vin(-)はVin(+)と同じ電圧になり、仮想短絡が実現します。


<仮想短絡が増幅回路を実現するメカニズム>
 これを説明するには、二つの抵抗で構成されている分圧回路を使います。
二つの抵抗とは、増幅率を決めるオペアンプICの外付け抵抗R1、R2の事です。また電圧点は3つあり、それは非反転回路の場合は「入力(仮想短絡端子)」「出力」「基準GND」。
反転増幅回路の場合は「オペアンプ回路の入力」、「出力」、「基準(仮想短絡)点(=オペアンプICの入力)」です。

非反転回路の場合はGNDを、反転回路の場合は仮想短絡点をテコ(梃子)の支点のように固定し、入力端子に信号を入れると、出力端子は「分圧の法則」に則った値が出力されます。




<仮想短絡を使う理由>
 分圧回路を利用して増幅しているのなら、オペアンプICで仮想短絡を利用する意味は何なのかと言う疑問が湧きます。 当然の事かもしれませんが、そうしないと計算では増幅が実現できても、現実にはその電圧が出力されないからです。

分圧回路の中間点が出力端子であれば、上下2点の電圧が決まれば出力が出ます。
しかし、増幅回路の出力は、分圧回路で言うところの電源に当たる部分です。なので、中間とGNDに電圧をかけても、電源部に正しい電圧は出てきません。計算で電源部の電圧を出す事はできますが、それと電圧を出す事は別物なのです。

これは過去に書いた下記NOTEの内容を元に再編して作成しました。

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