活線挿抜による故障

 <はじめに>
 活線挿抜とは、電源を切らないままコネクタなどを抜き差しする事です。よく家電製品で「電源を切ってからコンセントを抜いてください」のような注意書きがありますが、それとよく似ています。家電品が活線挿抜してはいけない理由は書いてないのでよくわかりませんが、開発や製造現場におけるコネクタの活線挿抜は、回路の故障原因となります。

その場で故障してくれれば原因推定もやり易いですが、劣化だけで時差で故障に至った場合等は何がきっかけで故障したのか分からなくなります。 そして破壊痕からサージが原因と特定されますが、サージはどこかで異常電圧が発生しているという思い込みで調査することが多く、原因にたどり着けない場合があります。

活線挿抜による故障は、データ破壊などもありますが、ここではハード的な故障について書きたいと思います。


故障のメカニズム>
 活線挿抜で故障する仕組みを知るには、回り込みの概念を理解する必要があります。
まず活線挿抜で起きる現象の起点は、各端子が同時に接触しない、つまり瞬時かもしれませんが時間差で接触する事です。これは例えば、+電源が接続された時まだGNDが接続されてない状態ができる様な状態を意味します。

説明の為に一例を示します
下図の回路において、電源+、GND、入力 の3端子に注目します。
電解コンデンサは電源安定のバックアップ用、ツェナーダイオードはサージクランプです。
これが例えば検査機にコネクタで接続されているとします。この3端子が時間差で接続する瞬間の状態をスイッチで示しています。
電源+と入力端子が先に接続され、GNDはまだ接続されていない状態です。
入力はLo信号(=GND)が入っています。

この瞬間に何が起きるか考えますと、赤線の経路を電流がたどります。 GND端子がまだ接続されていないので、回路中のGNDラインに入った電流はGND端子へは向かわず、ツェナーダイオードを経由して入力端子から出て行きます。

この経路には抵抗が無く、電流を絞るものが無いため過電流によりツェナーダイオードが破壊される可能性があります。電流を絞るものが無いと言いましたが電解コンデンサはどうなのか? という疑問を持つ方もいるかもしれません。コンデンサにはコネクタを刺した瞬間に、I=C*(dv/dt)の電流が流れます。 これは活線挿抜時だけでなく、正しく電源を入れた場合も同じ電流が流れます。しかしその場合は本来のGNDに流れ出るので問題にはならないのです。




<活線挿抜の発生故障シチュエーション>
 コネクタの抜き差しが存在する場面としては、電子回路の「組み立て工程」「検査工程」
「実験中」。また、市場では「修理作業」などが考えられます。

検査工程ではインサーキットテスタでプローブ(接触ピン)が基板に接触する前に通電状態になっていると、活線挿抜と同じ状況が作り出されます。

また、製品によっては検査時にGND線をコネクタではなく、ボディをクリップ等で繋いで取るような状況も考えられます。この場合も通電状態のまま製品の脱着作業を行うと、GNDと他端子の時差が発生します。 


<対策>
活線挿抜の禁止をマニュアル化する事は必要ですが、ヒューマンエラーは防止できませんのでハード側で対策するのが確実です。
・回り込みが想定される信号経路に抵抗を入れる。
・電子回路側だけでなく、検査機側の信号経路にも可能な限り抵抗を入れる。
  例えば、Lo信号としてGND直結にするのではなく、間に抵抗を介してGNDに落とす。


<まとめ>
 活線挿抜を行うとコネクタを差し込む瞬間に回り込み経路に過電流が流れ、経路上にある素子が破壊する事が考えられます。 活線挿抜で発生する故障パターンの一つは、GNDが繋がる前に電源+と信号端子が繋がり過電流経路ができる事象です。その経路上にコンデンサがある場合でも過渡的にコンデンサを貫通する電流が流れるので、コンデンサは電流阻止の役目はしません。 対策は経路のどこかに抵抗を入れる事です。

コメント

このブログの人気の投稿

サージとインラッシュ電流(突入電流)の違い

オペアンプの基本原理

トランジスタのハーフオン(半オン)故障