誘導負荷サージ(逆起電力)の発生メカニズム

<はじめに> 
 誘導負荷サージとはコイルを持つ誘導負荷の通電を遮断した瞬間に発生するものですが、この現象を言い表す一般的な呼び方は存在していないようです。 と言うのも、このサージの正体はコイルの逆起電力(電圧)そのものですので、呼び方は逆起電圧と呼ぶのが正しいのかもしれません。

しかし、逆起電圧は必ずしもサージだけを指す言葉ではありませんので、誘導負荷サージとか、コイルサージ、オフサージ等と呼ぶ事もあるようです。

現実的には、リレーやソレノイドバルブなどのコイルを使った部品のオフ時に発生し、そのサージによって駆動トランジスタ等を破壊してしまいます。


<発生メカニズム>
 このサージの正体は前述の通り コイルの逆起電力(電圧)そのものです。逆起電力は電流変化があれば常に発生しますが、その変化がMAXとなる条件の一つである電流遮断の時に、サージとして現れます。 なお、コイル単体で見た場合の逆起電力の発生メカニズムはここでは省略します。回路の一部としてコイルを見た場合の逆起電力の発生の仕方について書きます。

逆起電力の基本概念は、電流の変化を抑えるような電圧がコイルに発生する事です。それは慣性の法則と同じで、変化の瞬間は停止しているものは停止状態を保とうとし、移動しているものはその速度を保とうとする力です。(飽くまで変化の瞬間の話です。その瞬間が終われば最初の状態を維持しようとする力は働きません。変化後の状態が次の変化の初期状態となります)

電流変化は、電源で作り出される事もあるかもしれませんが、実使用上では負荷の急変や、スイッチのオン/オフが殆どです。

1、負荷急変時
電流5Aが流れている状態で、負荷が2Ωから10Ωに急変する場合を考えます。

電源10Vに対し抵抗2Ωですので、定常状態では5Aが流れます。(左図)

抵抗が10Ωに急変すると、5Aを維持する為にコイルは10Ωの上流を50Vに上げます。(中図)
(50V/10Ω=5A)   この50Vが逆起電圧です。電源10Vなのでコイルとしては40Vの電圧を発生させた事になります。 図に-40Vとマイナスを付けているのは、電位差はコイルの電源側端子からGND側端子を引いた値ですので10V-50V=-40Vとなります。

最後にこの変化が終わった後は、コイルの起電力も無くなり、抵抗が上昇した分電流が減りその値に落ち着きます。(右図)




2、スイッチOFF時
これは上記負荷急変の究極な状態で、変化が大きい分高いサージが発生します。
トランジスタ(Tr)がONからOFFになる事により電流の遮断が発生し、その電流変化によって発生する逆起電圧の説明をします。

まず、TrがON状態では、Trのドレイン電圧(箇所)は0Vです。(左図)

この状態からTrがOFFになった時を考えます。OFF時ドレイン−ソース間抵抗は5MΩとします。OFFした瞬間、5Aを維持する為にコイル下端(≒ドレイン電圧)は25MVになります。 5A×(5MΩ+2Ω)≒25MV(中図)

その後、電流は≒0Aになるので、ドレイン電圧は電源電圧と同じ10Vで安定します。(右図)

このようにTrがOFFした瞬間に高電圧サージが発生し、それがドレイン耐圧を超えていた場合にTrが破壊してしまいます。
なお、2Ωが入っている理由は、安定時に回路の抵抗総和が0Ωでショートになってしまうのを防止する為です。



以上は、理論を理解する為の説明であり、実際は変化の速さ(di/dt)が影響しますので、上記計算よりは低いサージ電圧になる事を認識してください。

<まとめ>
 コイル電流に変化があると逆起電力が発生します。電流変化が大きいシチュエーションの一つは電流の遮断です。その時は電源電圧より遥かに大きな起電力(サージ)が発生する事があります。 その原理を簡単に理解するには、電流を変化させない為の起電圧がコイルに発生すると考えるとわかりやすいです。

コメント

このブログの人気の投稿

サージとインラッシュ電流(突入電流)の違い

オペアンプの基本原理

トランジスタのハーフオン(半オン)故障