GaN SiCが注目される理由(高効率パワーデバイス)

<はじめに>
 インバータ等に使うGaN、SiC等のパワーデバイス(パワートランジスタ)の進化がなぜ重要なのかを書きたいと思います。ON /OFFだけのスイッチング素子なのに、なぜ効率化(省電力化)がそんなに重要なのか。なお、GaN、SiCの特性等は書いてありません。また内容的には常識的な事ばかりですのでご了承下さい。


<制御手段の進化で効率化>
 まずデバイスによる効率化の前に、制御方式による効率化の話をします。
駆動制御には大きく二つあります(ありました?)。「リニア方式」と「PWM」方式です。
PWMはインバータ制御とほぼイコールです。
リニア方式はもう殆ど使われていないかもしれませんが、両者の比較をする事は理解を深める事に繋がりますので簡単に説明します。

下図の左側がリニア方式です。リニア方式はトランジスタ(Tr)のゲート電圧(ベース電流)を制御する事により、Trを可変抵抗のように機能させる事で制御します。 
一方PWM(Pulse Width Modulation)方式(下図右側)はゲート電圧(ベース電流)のパルスのデューティー比を変化させて制御します。パルスはTrのフルON /フルOFFどちらかの状態ですで、Trが中途半端な抵抗を持つ事なく制御されます。 ON/OFF信号で制御されていると言っても、モーターの動作がON /OFFすることはありません。モーターが追従できない速さでON /OFFさせているので、モーター回転速度の変化となって現れます。
 基本的にTrのON及びOFF状態は電力を殆ど消費しません。ですのでPWM制御はTrが無駄な電力を消費する事のない効率的な制御手段と言えます。それに対しリニア方式はTrが無駄な電力消費をしてしまい非効率的と言えます。 場合によっては発熱で故障する可能性がある為、定格の検証を行なって適用します。トランジスタのハーフオン故障を参照)

この様にPWM方式は効率的な制御方法ですが、スイッチングを高速で繰り返すことで僅かな消費電力(スイッチングロス)も積み重なり無視できない量になります。大電力を扱う装置は発熱し、EV(電気自動車)のインバータ等は水冷で熱対策するほどになります。また冷却の規模によっては装置が大型化してしまいます。(EVの場合はIGBTのテール電流が電力ロスの一要因にもなっていますが)。 これを解決(改善)する手段の一つとして、高効率のトランジスタがあります。それがGaNやSiCです。 従来型(Si)に比べ低オン抵抗、高速スイッチングが特徴です。


<オン抵抗の改善>
 先ほどON及びOFF状態では殆ど電力消費しないと書きましたが、大電流の世界では、僅かなON抵抗でも電力消費は無視できないレベルになります。つまりON状態の電力消費はまだまだ改善の余地があるということです。
例えば、オン抵抗10mΩの場合、  1Aでは 0.01Wですが、 100Aでは 100Wも消費します。 

オン抵抗を下げるにはデバイスの厚みを薄くする必要があります。しかし副作用として、耐圧が低くなります。これを解決する物として、単位厚みあたりの耐圧が高い材料がGaN SiCなのです。薄くて耐圧があるので耐圧を下げないままオン抵抗を下げることができます。
    


<スイッチング速度の改善>
 そしてもう一つ、OFF⇄ONの状態が変わる瞬間の電力ロスも問題です。
時間は短いですが、電力が最大になるポイントがここに存在するからです。
短時間と言えど数十Hzという頻度でその状態が繰り返されれば発熱量も相当なものになりす。              
ゲート電圧ー電力 の関係

状態が遷移する途中の消費電力が高くなる事を説明したグラフを上に示します。図はイメージですが、X軸をゲート電圧として見てください。 左端はゲートLoの場合でVds=MAX /電流=0A。右端はゲートHiの場合でVds=0V /電流=MAX。つまりゲートLoとHiでは電力は0W。その中間で電力MAXになります。

ですのでこの中間(電力MAX)の部分の時間が短ければ電力ロスを減らせます。
それにはスイッチング速度を速くすればいいのです。 この速くするの意味は周波数を上げる事を指しているのではなく、Lo→Hi(Hi→Lo)の遷移時間の速度の事です。

GaN SiCがSi半導体に比べ耐圧が高い理由や、スイッチング速度が速い理由はここでは省略いたしますが、記載されている物は簡単に見つけられますので調べて下さい。

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