ロードダンプサージは誘導負荷サージ(逆起電力)ではない

<はじめに>
 ロードダンプサージ(Load dump)とは、負荷が遮断された瞬間に発生する高電圧サージの事で、一般的には自動車等でバッテリーラインが遮断した瞬間に発生するサージを呼ぶことが多いようです。この場合、遮断時に発生するサージと言う事で逆起電力サージと同じメカニズムであると考える人もいますが違います。


<自動車のロードダンプサージ>
 例として自動車のロードダンプサージについて書きます。
前述の通り、バッテリー配線が外れる等による遮断で発生するサージですが、この場合のバッテリーは電源ではなく負荷として考えます。オルタネータ(発電機)からバッテリーへ充電する過程で、負荷であるバッテリーが外れるとオルタネータ出力電圧が上昇し、これがロードダンプサージとなります。この場合、バッテリー残量が少なく大きな充電電流が流れている想定になります。



<サージの正体>
 結論から言いますと、ロードダンプサージの正体は負荷過渡応答です。これはスイッチング電源等のデータシートに記載されている下図のような特性と同じものです。
下図の赤丸箇所がそれに該当しますが、負荷電流が急減したタイミングで、電源の出力電圧が上昇しています。
下図を概念的に説明するならば、負荷電流が急に必要になった場合は電源供給がすぐには追いつかないため出力電圧が下がり、逆に急に不要になった場合は供給過多になった分だけ出力電圧が上がると言う原理です。





<メカニズムの説明>
 負荷が遮断した瞬間にロードダンプサージが発生するメカニズムを定量的に説明します。
14V電源で内部抵抗は2Ω、また駆動される負荷抵抗1Ωとします。

①サージ発生前の状態(下左図)では14Vを出力する為に、電源内部では42Vを発生させなくて
 はなりません。(42Vになる理由は、まず前提が14V電源、1Ω負荷なので、この系には14A流
 れます。内部抵抗2Ωでの電圧降下は、 14A×2Ω=28V ですので14V+28V=42Vが必要になりま
 す)

②次に負荷が遮断されます(下中図)。
 この瞬間、電源の応答性が間に合わなく42Vがそのまま出力端子に現れます。
 (電流0なので内部抵抗2Ωの電圧降下は無く、抵抗の前後で同じ電圧になる為)
 これがロードダンプサージとなります。
 つまり、ロードダンプサージの瞬間に42Vが作られた訳ではなく、サージが出る前から42Vは
 作られており、それが外に現れたと考えられます。

③電源の応答性により14Vに戻ります。②の状態と同じで電流0なので元電圧も14Vとなります。

ここで、注意しなければいけないのは、このサージは急激で大きな負荷変化(=電流変化、抵抗変化)が発生した場合にしか発生しない事です。 緩慢な変化や、さほど大きくない負荷変化では発生しません。 何を持って大きな変化と言えるのかは、電源と負荷とのとの兼ね合いで決まります。

例えば、上記回路の負荷が1kΩだったとします。(下図)
そうすると、14Vを出力する為に電源内部は14.028Vを発生させるだけで済みます。
ですのでロードダンプサージは14.028Vですが、サージとは言えない小さいレベルの変化に留まります。 負荷が1Ωの時は電源内部抵抗2Ωは無視できない値ですが、負荷が1kΩならば内部抵抗2Ωは無視できる値となるのです。


<まとめ>
 ロードダンプサージの根本メカニズムは電源の応答性であると言えますが、現実問題として、大電流の遮断に追従できる応答性を実現する事は不可能です。(勿論、技術的に不可能と言っているのではなく、その為にかかるコストとサージ吸収素子で対策するコストを天秤にかけた場合と言う意味です)

また、このサージが発生する条件は、電源と負荷との兼ね合いです。
負荷に対して電源に十分な供給能力がある場合、または(同じ事ですが)電源に対して十分小さい負荷の場合は、負荷抵抗に対して相対的に内部抵抗が0とみなせますので、電源内部電圧と出力電圧がイコールになりサージは発生しません。

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