仮想短絡のメカニズムは増幅率無限大とは関係ありません

 <はじめに>
 オペアンプの負帰還回路が仮想短絡(イマジナリショート)になる原理の誤解について書きます。 仮想短絡になる原理は、オペアンプの増幅率が無限大であるからではありません。


<巷にある仮想短絡の説明内容>
 仮想短絡のメカニズムの説明に、Vout=Av*{(Vin+) − (Vin-)} が使われる事があります。この式を変形し、Av=Vout/{(Vin+) − (Vin-)}となります。Av(増幅率)が無限大なので分母である(Vin+) − (Vin-)≒0、 つまりVin+=Vin- と言う理論です。

これ、一見なるほど分かりやすいと思ってしまいますが、本当に正いでしょうか。
Vout=Av*{(Vin+) − (Vin-)}は、オペアンプ単体の式です。Vin+とVin-は入力端子です。設定自由な受動端子です。受動端子同士がお互い近づくって変じゃありませんか。 
受動端子は設定するものであり、勝手に動かないです。
あるとすれば、「Vin+とVin-に同じ位の電圧を印加した事が予想される」と言うだけで、能動的に同じになる事はあり得ません。

仮想短絡はオペアンプ単体で説明する事はできなく、負帰還回路でないと説明できません。
つまり、Vin-がVoutからフィードバックを受けているからこそ、Vin-が能動端子となってVin+と同電圧になろうと動くのです。 Vin+は受動端子ですが、Vin-が能動端子となってVin+と同じになろうと動きます。


<参考までに>
 話を戻して、仮にVout=Av*{(Vin+) − (Vin-)}で証明できるにしても重大な勘違いがあります。それはVoutの扱いです。 証明はVoutが飽和していない想定で考えていると思います。つまり振り切っていなく本当にその値が出力されていると言う想定です。例えばそれが5Vだとした場合、Av=Vout/{(Vin+) − (Vin-)}はAv=5V/{(Vin+) − (Vin-)}で、Av無限大なので、確かに
(Vin+) − (Vin-)は5/∞と言う事で限りなく0に近くなります。
しかし、実際は飽和して(振り切れて)5Vになっているわけで、理論的にはVoutはもっと大きな値になるはずです。 ですのでVoutに現実値を入れて考えるのではなく理論値を入れて考える必要があります。

以上より、この式の条件を満たす為には(Vin+) − (Vin-)が何Vであろうと関係ないわけです。
0Vに近づくロジックなど存在しません。そもそもこの式に「満たす条件」を考える事が間違ってるのかもしれません。この式が意図する事は、もの凄く小さな差(Vin+とVin-)でも、振り切れるほどの電圧が出力されます。つまりHかLしか出力されず、中途半端な値は出ませんよ という意味しかないのだと考えます。


<仮想短絡のメカニズム>
 これが仮想短絡のメカニズムではないならば、何なのかと言う事になりますが、
それは簡単に言うと、負帰還とコンパレータロジックです。 つまり、基準電圧を超えたら下げて、下回ったら上げる と言う単純なロジックを繰り返す事です。 HとLしか無いロジックですが、反応速度が速く基準電圧を超えた(下回った)瞬間に逆方向に向けば、自ずと基準電圧と同じ電圧になります。 基準電圧を中心に上下に振動する波形がイメージできます。実際は振動波形には見えず、基準値と同電圧に安定して見えます。これが仮想短絡(Vin-とVin+が同電圧)になるメカニズムです。
詳細はオペアンプの基本原理を見てください。

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