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新交通システムの逆走事故(フェールセーフ設計・断線検知)

 はじめに 横浜市の新交通システム(金沢シーサイドライン)で2020年に発生した事故にて、車両設計者が書類送検されました。 原因はフェールセーフ設計のミスでした。この内容について書きます。なお、この車両システムは無人運転(自動運転)システムです。 事故内容 「前進−後進」切り替え信号の配線が摩耗により断線 。それにより逆走。始発駅の車止めに約25km/hで衝突した。17人が負傷、うち12人が重症。 前進、後進信号をラッチ(記憶)するシステム。即ち、新しい信号が来ないと更新されない。 終点で、前進から後進に切り替えるが、断線していて、後進信号が伝わらず前進信号のままになっていた。 断線検知は設定していなかった。 問題点 重要な信号に対して断線ケースを想定するのは、機器設計者としては当然の事です。 有人運転であれば、逆走を始めた瞬間に車両を止めて事故には至らなかったでしょう。 しかし無人運転では、それができないわけですから、いかにフェールセーフの採用が重要かと言う事です。 断線検知の方法 断線すると、信号レベルは不定になるので、何Vをもって断線と判断すればいいか分かりません。 断線時はテスターやオシロは0Vを指す事が多い為、0Vなのか断線しているのかの区別は難しいです。 0Vとハイインピーダンスの違い ですので、断線を検知するにはそれなりの工夫が必要です。 確実なのは信号の二重系です。両方のロジックが一致していなければ、どちらかが断線していると判断します。 通信線を増やさずに検出したければ、断線時にHとLの中間の電圧が出力されるよう、プルアップ、プルダウン抵抗で設定します。 その電圧を検知する事で断線が判明します。 余談 金沢シーサイドラインは、当初有人運転をしていました。ある時期から無人運転に切り替えたのです。ですので、もしかしたらフェールセーフ設計が甘かったのかもしれません。 最初から無人運転が前提で設計していたら、今回のようなミスは発生していなかったのではと思います。 また、本来なら断線検知だけでなく、車に普及している自動ブレーキ(前方障害物を認識してブレーキをかける)も採用すべきです。

高抵抗は注意して使う

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 <はじめに> 電子回路にはいろんな用途で抵抗器が使われます。その 抵抗値は大きすぎると不具合の原因になる場合があります 。 勿論、それらの抵抗は適正な値になるよう計算して決めているわけですので、高抵抗だからと言って禁止するわけにはいきません。ですので、高抵抗を使用した場合は以下に書きます不都合が起るかもしれない事を念頭に入れて設計すべきと思います。 <高抵抗の使用に注意しなければならない理由> 「高抵抗素子」と「回路の絶縁箇所」の関係性が注意すべき理由です。 絶縁箇所は最低でも数十MΩ以上あります。そして回路で使用する抵抗素子は一般的には数十KΩとした場合は三桁の差があります。 しかし、数百kΩやMΩオーダーの抵抗になると回路の絶縁部の抵抗に近くなります。すると分圧により、電圧ドロップが発生します。 勿論、プリント基板の絶縁抵抗は数MΩよりずっと高い値ですから、通常ではそんな事は起こりません。 問題は、湿度や水分が付着した時です。その状態になると絶縁抵抗が格段に低くなります。 例えば下図のようにIC入力端子に100kΩを適用し、その端子の隣接にGNDがある場合、もし絶縁が100kΩまで落ちたら、本来5Vの信号が2.5Vにドロップします(下図)。 恐らく殆どのICの入力抵抗は100kΩなどという高抵抗を使う事はありませんが、タイマーICや発振回路の定数などに使用する場合があります。 <対策> 絶縁部に何の懸念もなければ対策の必要はありません。しかし絶縁部の距離が短い場合や、湿度の懸念がある部分であるならば、対策を織り込んでおかなければなりません。 距離を広げる、防湿コーティング剤などが一般的な方法です。 <故障時> 故障発生事に起こりがちな事ですが、入力電圧がドロップしているので、 IC内部のリーク故障 と勘違いしするケースがあります。 そしてICを外して単体を解析しても異常なしで非再現故障となります。 ですので、事前にこの事象を知っておく事は有益であると言えます。 <まとめ> 0Ωだけがショート故障ではありません。絶縁部であれば例え数百kΩ、場合によっては数MΩに低下しただけで故障につながる事があります。 そしてその故障モードを誘発する原因の一つは高抵抗の使用です。 しかし、高抵抗素子は必要性があって使う事もあるので、その場合は系の絶縁劣化を防止する対策(...

チャットGPTで論文作成は不可能だと思う理由

チャットGPTは文章作成に威力を発揮しますが、論文作成はほぼ不可能だと考えます。 その理由について書きたいと思います。 まず論文は、ただ書けば何でも論文になるわけではありません。 論文に最低限必要な要素は 独自性 です 。 世の中に同じ内容の物が存在していたら、その論文の存在価値はありません。 独自的な結論でなくても構いません。結論は同じでも、そこに行き着く過程に独自性があれば意味があります。 それは仮説が正しい事を別の手段で証明した事になるからです。 このように、論文には必ずどこかに独自性が必要になります。 それを踏まえてチャットGPTを考えてみます。 GPTのロジックは機械学習(ディープラーニング)によって生成されます。それは関連付けによるロジックです。対象物の意味は理解していないけれど、色んな事項の 相関 を学習して取り込んでいくわけです。 そしてその関連性の強さは、出現頻度等によって確からしさを認識する事になります。 例えば学習過程において、富士山という言葉には高確率で「3776m」、「静岡県」「山梨県」などのフレーズが現れるわけです。 そうなると意味はわからなくてもこれらの言葉は富士山を表す正しい情報だと認識します。 つまりこれは、「皆が言っている事が正しい」というロジックに他なりません。 しかし、皆が言っている事には 普遍性はありますが、独自性はありません 。 (独自性のある情報は、誤った情報である確率が高いと認識するかもしれません) 繰り返しになりますが、GPTは皆が言っている事を正しい情報と認識して、それをアウトプットしようとするわけですので、独自性のある回答を得る事はできません。 以上より、GPTではレポート作成くらいは対応可能かもしれませんが、論文レベルの内容の文章を作成するのは不可能だと考えます。 目次に戻る

フェールセーフは信頼性を下げる

<はじめに> フェールセーフ(fail safe)とは、万が一機器が壊れた時に安全側に動作させる設計の事です。 これを採用する事で、安全性は上がりますが信頼性は下がります。 フェールセーフは故障に対しての方策なので信頼性が上がると錯覚しがちですが、その逆ですので気をつけたいところです。  <信頼性と安全性の関係> 信頼性とは故障しない事ですので、 安全性とは少し違います 。安全性は故障の有無にかかわらず安全であるか否かを意味します。ですので信頼性が下がるとは故障率が上がる事なのです。故障率が低ければ安全性も上がるので、信頼性を上げれば安全性が高くなると言えますが、信頼性が低くてもフェールセーフ等の安全策を付加すれば安全性は確保されます。 ですので必ずしも「信頼性=安全性」とはならないのです。 ・信頼性↑➡︎安全性↑(正) ・信頼性↓➡︎安全性↓(誤) <信頼性が下がる理由> フェールセーフという機能を追加する事により、余分な機能や部品が追加されるわけですので、その分の故障率が上がります。 機能や部品点数が多いほど故障の機会が増えますので、故障率が上がるわけです。 <信頼性と安全性は切り分けて考える> 故障率を下げることで安全性を上げるのは当然の事ですが、それでも機器の故障は免れないので、それに備えて安全機構をつけておくわけです。 しかし、その機構が信頼性(故障率)の足を引っ張るという事を忘れてはいけません。 これは フェールセーフだけでなく故障検知機能も同じ です。 異常検知機能の信頼性が高ければいいですが(ストーブ等の機械式の転倒検知など)、センサーのような誤作動が多いもの(或いは設定条件が難しいもの)は、環境や使われ方によって誤検知が頻発する可能性があります。 <フェールセーフや検知機能の必要性の検証方法> 故障という意味では、本来機能も付帯機能であるフェールセーフや異常検知機能も重みは同じです。ですのでそれらの機能の設定は慎重にすべきです。 H3ロケットの第二段エンジンが着火に失敗したケースは、過電流検知が作動して電源を停止させた為とあります。既に上空にいるロケットに対して異常対策として電源停止する事に何の意味があるのでしょう。 誤検知であった可能性を考えれば、過電流検知しても電源を停止させる必要はなかったのです。 本当に過電流だったとしても、もうどうしようも...

交流(虚数iは何の為にあるのか)

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複素数は、2次元平面上の点を表しています。たとえば、a+biは座標が(a , b)の点を表します。aは実部、biを虚数部と呼びます。実部と虚数部は独立しているのでa,bの間の+は、足すという意味ではなく、bの正負を表しているだけです。 そしてこの式にiを掛けると、座標の点が原点を中心に反時計回りに90°移動します。-iを掛けると、逆に時計回りに90°移動します。これはiの2乗=-1と定義しているからです。(下記例を参照。y軸が虚数部です) 虚数の虚は「実態がない」ことを表しますが、なぜそんな表現にしたかについて、明確な理由が書いてある物を見た事はありませんが、たぶんこうだと想像します。下図のように円運動を上から見ると(タイヤに例えると横からではなく接地面を見る方向)、x 軸上の直線往復運動に見えます。往復運動ですので両端では一時停止して向きを変えます。 しかし円運動としてはその瞬間も止まっていません。それどころか、その瞬間のy軸上の速度は最大になっているわけです。ですので、y軸上の動作はx軸上での観察に現れない虚像という事ではないでしょうか。 電子の世界では虚数部のiはjと書きあわらします(iだと電流と同じになるので)。コンデンサとコイルの位相差は90°なので、jを使った式がそれを表すのに都合が良いわけです。 目次に戻る

チャットGPTは本当に凄いのか

チャットGPTの凄さとは何でしょうか。私たちはそれを誤解してる様な気がしてなりません。確かに凄いかもしれませんが、その凄さに比例した有益性が得られるでしょうか。 技術の凄さと有益性は必ずしもイコールではないわけです。 何故チャットGPTが凄いと感じるのか?  「人みたいで凄い」というだけのような気がします。 人が言葉を喋るのは当たり前ですが、鳥が喋るとすごいと感じます。それと同じでチャットGPT(以下GPTと書きます)という進化したチャットボットが、まるで人のような回答を出す事は凄いと感じます。 人みたいで凄い物をもう一つ紹介します。(下記リンクの動画を見てください) 人型ロボ アトラス まるで人のような動きができるテクノロジーには驚愕します。しかしこのロボット、人と同じ仕事ができるでしょうか。 今は出来ていません。事前にプログラミングした動作なら動画の様にこなせますが、自在(自発的)に動作させるフェーズではないのです。 「人の動作そっくりで凄い」事と、「(実務として)人と同じ事ができて凄い」では意味が違います。 チャットGPTの回答内容は凄いのか? GPTの回答内容は、巷にある情報を取り繕って出力している訳ですので、せいぜい常識レベルの回答でしかないと言えます。つまり普通の事以上を知る事はできません。ネットで開示されている情報をソースとしているのですから当然です。 またGPTは 文章生成能力が非常に優れていますが、文中の情報の正確さに大きな問題があると感じます 。ですので、検索には向いていなく、文章にまとめさせる使い方にしか適用できないかもしれません。 文章があまりに優秀すぎてあたかも中身の情報も正しいような錯覚を受けますので注意が必要です。 凄い技術は有用とは限らない 前述のロボットもGPTも技術としては確かに凄いのですが、有用ではないのです。  つまり技術は革新的ですが、革新的な仕事は出来ないと言えます。ロボットの方はハードは完璧なのにソフト(制御)が追いついていません。GPTの場合は回答の質が汎用の域を脱する事ができません。(精度はいずれ学習して良くなるのかもしれません)。 私たちは、「凄い技術=凄い仕事ができる」という思考に陥りがちです。 技術は革新的であるが、その技術で革新的な仕事が行えるのか。 そこを考えた上で評価すべきと思うのです。  結論 最終的に...

電子回路における動的平衡の重要性

身の回りには、止まって見えていても実は動いているものが多くあります。静止させる為に動かしているといった方が正確かもしれません。 この場合の「動かす」は移動の意味ではなく、力が働いているという意味です。 綱引きは、力が均衡(平衡)している(釣り合っている)と静止するわけです。しかし力が何もかかって無くても静止します。 重要なのは、 その静止状態が何も力が働いてなくそうなっているのか、力が均衡してそうなっているのかという事です 。 タイトルに示した動的平衡という言葉は色々な意味で使われますが、総じて言えば、常に動いているもの同士が全体としてバランスがとれて均衡が保たれている状態の事です。 これは電子の世界にも当てはまると思います。 代表例としては電源があります。電池などはそれに当てはまらないかもしれませんが、回路として組まれた電源は全て該当します。 定電圧源であれば一定電圧を出し続ける場合、電圧値が変わらないので何も動いていないと感じてしまいます。(ここで言う「動いていない」は、staticの意味です)。 例えばポテンショメーターのように分圧で電圧値を決めて、その設定を維持し定電圧を出続けるようなイメージです。 しかし、実際はそうではなく、負荷変動によって起こる電圧変動を抑える為に、常に電圧を変化(調整)させています。綱引きで例えれば、相手が引く力が常に変動していて、それに合わせてこちらが引く力も調整し、綱が動かないようにしています。 制御されている電圧(電流)は、すべてこの原理に従っています。 そしてこれは、電源をはじめとした フィードバック回路系全てに当てはまります 。 フィードバック系を大雑把に表現すると、目標値を境に行ったり来たりを常に繰り返す動作をするものです。 普通は、行ったり来たりの幅が限りなく小さい(≒0)ので、目標値に張り付いて静止している様に見えます。 しかし制御がうまくいってないと、この振幅が大きくなり発振しているように見えます。 動的平衡は電子回路を考える上でとても重要な概念だと思います。 蛇足ですが、電子以外に動的平衡が働いているものとして、電力、水道、恐らく都市ガス等もそうだと思います。 つまり使用量が時間帯によって変動するので、それに合わせて例えば水道であれば水圧を強めたり弱めたりして、蛇口から出る水圧を一定に保つわけです。 目次に戻る