ハード故障におけるFTAの意義

 <はじめに>
 故障解析の筆頭に挙げられるのはFTA(Fault Tree Analysis)だと思います。
想定される原因を階層的に網羅して、各々の関係性をロジックで結びつけます。良い方法ですが、機能させるにはそれなりの前提が必要な気がします。


<FTAの問題点>
 色々な分野で活用できるFTAですが、電子回路の故障で適用した場合に感じる事があります。普通の故障であればFTAを使うまでもありませんが(脳内FTAが遂行される)、しかしFTAで考えようとなった場合には、すんなりと行かないケースが多いです。

FTAは当然ですが想定内のものしか候補になり得ないです
ですのでまず、そこのレベルが問題になります。正解がFTAの中に存在してなければ次のステップに移っても意味が無いわけです。
従って第一の関門は、FTAによって正解の候補を抽出できるかです。

そして、第一関門を突破したとしても、次はどれが正解かを選択肢の中から探し出す第二の関門が待っています。 折角正解があるのに、そこに辿り着けなれば意味がないです。ここは机上の理論だけではダメで、現物の解析・測定、そして再現試験をするしかありません。

 また厄介なのは、非再現の故障です。これは単純なFTAだけでは解けません。そこに非再現の要素を盛り込まなければならないからです。 今現在正常に動作しているものを普通のFTAでは原因が特定できないのは当然で、非再現になる原因も同時に考えなければなりません。

例えば、末端事象が「ショート」の場合、ある条件でのみショートするとか、ショートとは何Ωくらいを言うのかを考えます。 湿度や結露で絶縁抵抗が1MΩくらいに下がるかもしれません。1MΩがショートなのか?と思われるかもしれませんが、箇所によっては1MΩでも立派なショートになり得ます。 非再現の時に考えなければならないのは、
「温度」、「湿度(結露)」、「振動」、「操作(動作)シーケンス」です。

温度は半導体や素子の温度特性、或いは材料の膨張収縮による接触・非接触に効いてきます。
湿度は、イオンマイグレーション等によるショートや腐食による配線の細り。
振動は接続部位(ハンダやコネクタ等)の瞬間的な接触不良。
操作シーケンスは、操作手順に起因する事象。例えば想定しない順序で操作した等。

 さらに本質からは外れますが、FTAと言う手段が目的になる事が往々にしてあります。そうなると、日程はどうするのか、誰がやるのか、進捗はどのタイミングで報告するのか等、FTAの運営自体が目的になり、ほぼ中身が無くなります。技術主導から政治主導になるからです。


<一番重要な事>
 正くFTAをやるには、当たり前の事ですが内容をちゃんと理解するという事です。或いは理解している優秀な人を呼んでくると言う事です。そして政治主導になる前に解決する事が必要です。政治主導になると、優秀な技術者はつまらなくなって来てくれなくなりますので、その前に解決しなければなりません。

また、ちゃんと理解していないと正解の候補をFTAの中に入れ込む事さえできません。
例えば、IC内部が焼損していた場合、サージが原因の一つになると考えます。サージの種類は誘導負荷なのか、電源のオーバーシュートなのか、静電気か、と色んな種類をとりあえず想定するでしょう。 しかし、内部焼損はサージエネルギーだけが原因とは限りません。
ハーフオンラッチアップ、dv/dt等も原因となり得ます。それらが候補に挙がらなかったら恐らく機能しないFTAと言えます。因みにパワートランジスタはラッチアップするのかと疑問に感じるかもしれませんが、スマートパワーであれば内部にCMOSロジックが存在するのであり得るのです。


<まとめ>
 FTAは、技術力を補完するものではありません
FTAの効力を端的に言うならば、問題を整理するとにより分かりやすくし、それによって原因が見えてくる可能性に期待するものです。ですので整理するまでもない事象であれば、あまり効果を発揮しないと言えるでしょう。
こういう場合はFTAではなく、技術的な深掘りに注力しなければなりません。
FTAをやろうとすると、どんな些細な事も挙げなくてはならず、それを全て検証し潰し込まなければいけなくなります。すると関係の無い検証に時間が取られ本来時間をかけるべき所が疎かになります。
本当にそこまで追い詰められたならそうするしかありませんが、大抵の場合、重要な所の深掘りができず、苦し紛れにFTAに移行して無駄な時間を使う事の方が多い様な気がします。

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