H3ロケット打ち上げは「失敗」なのか「中止」なのか(フェールセーフ誤検知の話)

 2023年2月17日に打ち上げ予定だったH3ロケットは補助ブースターの点火ができず、残念ながら打ち上げに至りませんでした。 JAXAが失敗という言葉を使わなかったのに対し、ある記者が会見の場で、「それは一般的に失敗と言います」と言って批判が相次いだとの記事がありました。

私が見たコメント欄に多く見られた内容に、フェールセーフが作動したのだから失敗では無い、と言うものがありました。

恐らくフェールセーフが作動したのは間違いないと思いますが、一概にフェールセーフが作動したと言っても2つの解釈があると思います。
①フェールセーフが正常に働いた。(本当に異常があった)
②フェールセーフが誤作動した。(異常が無かったのに異常と判断してしまった)

記事によれば、異常検知して着火信号を送られなかったが、ブースター側には異常はなく何を異常と検知したのか原因究明中 と記載されてますので恐らく②の可能性が高いと思います。 

この件には当てはまらないと思いますが、参考までに異常検知に関しての落とし穴について書こうと思います。
異常検知機能を検査する為のしきい値は二つあります。 どういう事が以下説明します。
普通は、ある一つのしきい値を境界として、それ以上と以下で正常・異常が決まり、しきい値は一つだと考えます。 それは間違いではありません。しかしこの概念が検査の時に勘違いを誘発する事があります。
異常検知の検査を行う為に、測定は何ポイントで行うでしょうか? 状態は二つ(正常・異常)しかないので、しきい値の少し上のポイントで異常確認すれば、異常検知しない側のポイントは省略できるでしょうか?

故障(あるいは不良品)でしきい値がだいぶ低くなっている製品があるとします。しきい値を超えると異常と判定するロジックの場合、しきい値より少し上で異常検知できたとしても、もっと低い値でも異常検知してしまうのでNGです。正常を異常として誤検知してしまう可能性があります。ですのでしきい値の上と下、2ポイントを検査しなければいけないのです。

つまり、1ポイントでしか検査しなかった場合は、正しい検査ができず、正常を異常として誤検知する可能性があると言う事です。
↓ここに少し詳しく書きましたのでよろしければ見てください

今回の件、失敗か中止かと問われれば・・・
飽くまで感覚的にですが、点火前に止めていれば中止と言っても違和感はないように思えます。しかし今回は点火まで行ってからの事ですので失敗と言った方が自然なのかと思います。

JAXAとしては、飛び立つ前はまだ結果が出ていないので成功も失敗もなく、それを評価するのは飛び立った後である と言う感覚なのかもしれませんね。


<追記>
これを書いてから1週間たっても、まだ「失敗」か「中止」かについての記事出ています。 その記事に対するコメントは、失敗ではなく中止である、と言う意見が多数派のようです。

何を前提に考えるかで「失敗」と「中止」の意見が分かれると思います。
目的を達成できなかった事を失敗というのですから、打ち上げという行為に対しては「失敗」
打ち上げて軌道にのせると言う全体的な行為に対しては「中止」(=まだ失敗ではない)、で良いのではないでしょうか。

それと、フェールセーフが機能したから失敗ではないと言ってる人がまだ沢山いますが、フェールセーフが作動した時点で失敗です。 フェール(失敗)した時に安全側(セーフ)に動作するよう設計する事がフェールセーフなのですから。 フェールセーフがちゃんと機能したので何となく失敗じゃないと感じる、想定内の事なので失敗じゃないと感じる、など色んな思いがあると思いますが、想定内であろうがなかろうが、うまくいかなかったら失敗です。 

フェールセーフも外的要因で作動したなら、例えば発射直線に強風が吹いてそれを検知し噴射信号を停止させたというなら失敗ではありません。この場合は中止と言って納得しない人はいないでしょう。 フェールセーフが作動したのだから失敗ではないと言っている人は、こういう事例と混同しているのかもしれません。

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