H3ロケットの不具合原因について(補助ブースター点火せず)

 H3ロケット打ち上げ中止の原因がJAXAから発表されました。その資料には漠然とした事しか書いてありませんでしたので、何が発生したのかを推測してみました。

まず、JAXA発表の資料を引用し下記に貼り付けましたので見てください。

この内容をJAXAとは違う表現で書きますと、
・電気的離脱時に、地上設備からロケットに送る信号が想定通りにならなかった。
 (ブロック図:①部)
・その為にFPGAが誤信号を受け取る事になってしまった。(②部)
・誤信号によりFPGAは半導体スイッチをOFFする信号を発した。(③部)

誤信号になってしまった原因は、電気的離脱の方法にありました。
電気的離脱とは、地上とロケット間の電気的接続を切る行為だと考えます。
ロケットが打ち上がれば物理的に地上−ロケット間の接続は切れるわけですが、その前に自主的に切っておくわけです。 

どうせ切れるのになぜ事前に切っておくのかという理由は、物理的に切れた時はロケットが飛び立っている状態ですので、その状態で異常を検出しても、もう停止する事ができないからです。


では、電気的離脱のどこがいけなかったかを推測したいと思います。

まずこの図を見て勘違いしてはいけない点は、ON/OFFの波形がロジックのH/Lに見える事です。 H/Lは電気的に接続されていて電位レベル状態のみを表しているのに対し、
ON/OFFは、H・Lレベルに関係なく電気的に接続されているか否かを表しています。

説明図にありますように、各信号の切るタイミングが原因と言っています。そしてこれが全てを表している所だと思います。
つまり「電源と信号ラインを一括で(同時に)切った事が誤信号発生の原因」という事です。

しかし厳密に言えば、本当に同時に切れたなら問題にはなりません。ここで問題なのは、理論と現実のギャップです。 同時とはどれくらい同時であればいいのかという問題です。完全同時は不可能ですので必ず両者に差が発生します。その差は電子の世界では1μsであっても検知しますので同時とは言えません。つまり私たちの感覚で完全に同時だというレベルであっても電子では通用しないのです。

ですので、正しく原因を表現するのであればこうなると思います。
電源と信号ラインを一括で(同時に)切ったが、実際には完全同時にはならず、電源ラインが僅かでも先に切れる事が誤信号発生の原因。

では、この遮断タイミングの差が何に効いてくるのかという話になります。
例えば通信ラインをLに落としてから電気的離脱を行うのが正常なシーケンスだとします。
この状態での電気的離脱のタイミングとして、先に信号ライン(L)が切れるのと、逆に電源ライン(GND)が先に切れるのとで、何か違いがでるでしょうか。

これは、GNDが先に切れたら完全にアウトです。
L信号は、GNDが繋がっているからこそL信号レベルと認識されるわけです。
GNDが離れた瞬間、L信号は相手に何Vと認識されているかわからなくなります。
運悪くH信号と認識されてしまったら、それは誤信号を送信したと同じ事になります。

つまり、通信はかならず、信号ラインを先に切ってから電源ラインを切る必要があるのです。
入れる場合も同じく、電源ラインを繋いでから信号を入れます。
システムを切った瞬間、受け側も落ちるのであればこれは関係ありませんが、今回のように受け側が生き続けている場合は、この順番は重要な要素になります。


では、設計段階での反省を行うとすればどういう内容になるでしょうか。
結果論なのでアンフェアですが、敢えて言えばFMEAでの深掘りが足りてなかったと感じます。 「GNDラインの断線」という項目で検出できればと思いました。
GNDラインの断線で誤信号が発生する可能性がある事までは検証したと思いますが、恐らく何らかの異常で断線する事しか想定してなかったと思います。
今回の場合は何の異常も無い状態で発生したわけです。GND断線でなぜ誤信号が発生する可能性があるかを認識していれば、断線故障だけでなくタイミングのマージン不足が原因でGND断線と同じ状況が発生する可能性も検知できたと考えます。

シーケンスで同時オン(オフ)がある場合は、必ず「差」が発生する(本当の同時は現実的にはあり得ない)と言う前提で考えて、それでも問題ないかをきとんと検証できるかがポイントになると思います。

今回の不具合は以前書きました活線挿抜による故障に考え方が近いと思います。
この事例は活線挿抜によるタイミングずれで破壊してしまう内容ですが、これはシーケンス不良による誤作動にも当てはまると思います。

<追記>
信号ラインを先に切るべし、と書きましたが、CMOSの場合は入力端子はその状態(ハイインピーダンス)ではロジックが不定になりますので、必ずプルダウン(プルアップ)抵抗を入れる事が大前提となります。お忘れないようお願いします。

<追記2>
GNDラインが先に切れるとなぜ信号電圧が不定になり誤信号となる可能性があるのか、について。 まず電圧というのは2点間の電位差です。ですので一つのラインでは電圧は決まりません。送信側は自分の中でGNDに対して◯V出しているという認識があっても、受信側はGND電位の情報を知らせてもらわなければ基準がわからないので、何Vの信号が来ているのか判断できないのです。

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